法律Q&A

エスクローとは?

エスクローとは、M&Aにおいて、譲渡価額の一部につき、クロージング日に買主がエスクロー・エージェント(信託銀行等)に支払を行い、売主と買主が合意した一定の期間、エスクロー・エージェントがこれを保管し、当該一定期間経過時点で、売主と買主が合意した条件(表明保証違反が発生していないこと等)が充たされたことを条件として、売主が、エスクロー・エージェントが保管していた譲渡価額残部を受領できるようにするアレンジメントのことをいいます。


このようなアレンジメントが採用される背景として、譲渡価額の一部後払いがなされるケースがあることをご説明する必要があります。すなわち、譲渡価額の全額がクロージング日に一括で支払われることが通常なのですが、時に、譲渡額の一部をクロージング日から1年経過後に支払うというような規定が置かれることがあります。これは、売主による表明保証違反や誓約違反があった場合、買主は株式譲渡契約等の規定に従って補償請求をすることになりますが、その時点で売主側において受領済みの譲渡価額が現存するとは限りません。このような売主の信用リスクを担保する趣旨で、譲渡価額の一部留保が行われる場合があります。後日、上記表明保証違反等が判明した場合、買主としては、補償請求権と支払留保した譲渡価額を対等額で相殺することにより回収を図ることが可能となるというわけです。


そしてこのような譲渡価額の一部後払いが行われることとリンクして、今度は売主側にとって、クロージング後に買主が一部後払い部分の支払能力を失うリスクに対処する必要が生じます。この買主の信用リスクを担保する趣旨で、エスクローが用いられるということになります。


もっとも、エスクロー・エージェントに対する報酬の支払が必要となりますので、当事者には追加の費用負担が発生します。


昨今の企業承継を目的とする中小企業のM&Aにおいては、このエスクローはあまり見かけないと思われます。売主がファンドである場合や、海外の法主体である場合において有用な手法と考えられます。


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LOIとは?

LOIとは、Letter of Intent の頭文字を取った略語で、日本語では通常、「基本合意書」とされます。MOU(Memorandum of Understanding)と呼ばれることもあります。


M&A取引を検討する当事者が最初に締結するのはCA(秘密保持契約)ですが、同じく交渉の比較的初期段階で、この基本合意書を締結することがよく見られます。


その内容ですが(取引案件により異なりますが)、通常定められるのは、取引内容や日程についての確認条項、売主が買主に対し独占交渉権を付与する条項、買主のDDに売主が協力する義務に関しての条項です。譲渡価額が記載されることもありますが、基本合意書はあくまでも基本的な事項に関する確認書ですので、かかる譲渡価額の記載に法的拘束力はないものと解されます。したがって、基本合意書締結後に実施されるDDの結果や交渉等により基本合意書の内容が変更されたり、あるいは当該案件そのものが消滅した場合でも、相手方に対して損害賠償を請求することは困難です。ここに「困難」と述べたのは、仮に基本合意書に法的拘束力がないとしても、一度合意した以上は、それを変更するには、合理的な理由が必要であるというのが、売主・買主双方の合理的な期待であると考えられることから、あまりに不合理な理由により交渉が決裂した場合には、いわゆる契約締結上の過失が問題となる場面が出てくる可能性が否定できないからです。


いずれにせよ、基本合意書に記載されている内容は、文字どおり、M&A取引の交渉においての基本となります。それゆえ、基本合意締結の段階で、取引の条件等につき、可能な限り詳細な協議を行い、これを契約書に落とし込むことで、その後の交渉をスムーズに行うことが可能になると考えられます。


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クロージングとは?

M&Aにおけるクロージングとは、取引の実行、すなわち、株式譲渡契約の場合は、株式の譲渡と譲渡代金の支払いがなされ(これらは同時履行の関係に立ちます。)、経営権の移転が完了することをいいます。


中小企業のM&Aにおいても、株式譲渡価額は相当に高額なものとなることが通常ですので、現金で決済することは適切ではありません。通常は、M&A仲介業者やFAの店舗又は売主か買主の代理人弁護士の事務所を会場としてクロージングが実施されますが、ここに売主買主が同席の上、送金手続きを行い、着金確認と同時に株式の移転を行うということが多いです。


なお、株式移転に関して、株券発行会社であればその移転は株券の交付をすれば済みますが(株券の交付が株式譲渡の効力発生要件とされています(会社法128条1項)。)、株券不発行会社の場合には(今日ではこちらがほとんどではないかと思われます。)、意思表示のみで権利が移転しますので、クロージング時に特段の行為は必要ないということになります。

それゆえ、最終契約書には、売買代金の支払いと同時に権利が移転する旨、及び、株主名簿の名義書換を実施する旨の規定を置くことになります。


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補償とは?

補償とは、M&Aの当事者の一方に表明保証違反又は契約上の義務違反があった場合に、当該違反により相手方当事者が被った損害を填補する旨の合意をいいます。


表明保証違反があった場合、これと相当因果関係のある損害について、契約当事者は、相手方当事者に対して補償請求をすることができるということになります。


この補償は、英米法における Indemnification の訳であり、日本法における内容は当然には明確ではありません。ですので、補償の法的性質についても諸説あります。

まず、表明保証違反について述べますと、表明保証違反に伴う補償の法的性質については、実務上、損害担保契約と解されています(債務不履行に基づく損害賠償請求、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求(いずれも改正前民法)との説もありますが、実務上は有力説ではありません。)。

それゆえ、補償条項が契約書に規定されていない場合には、表明保証違反があったことのみをもって補償請求は認められないという議論が成り立ちます(実際にそのような考え方がM&Aの取引実務において受け入れられているとは考えにくいですが。)。

他方、誓約違反等の契約上の義務違反に基づく補償責任の法的性質については、あまり議論がなされているとはいえない状況ですが、おそらくは、民法上の債務不履行責任と考えるのが一般ではないかと解されます。


表明保証違反に基づく補償に関しては、相手方に帰責性がなくとも請求が可能であると解されていますが、債務不履行責任に基づく損害賠償請求においては、相手方に帰責性が要求されることから、これとは異なるということになります。契約上の義務違反に基づく補償責任に関しては、これを上記のとおり債務不履行責任と考えるのであれば、帰責性が要件となると考えられます。


また、補償に関しては、金銭的に制限がかけられることがあります。次のような制限が一般的です。

・補償額の上限(Cap)

・下限(Floor 又は Basket)

・一定の下限額を超えた場合、当該下限額を超える金額のみを補償請求できるもの(Deductible)

・一定の下限額を超えた場合、当該下限額以下の金額についても補償請求できるもの(Threshold)


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