法律Q&A

CAとは?

CAとは、Confidential Agreement の頭文字を取った略で、日本語では「秘密保持契約」となります。M&Aを検討している各当事者が一番最初に締結する契約です。ちなみにM&Aも「エムアンドエー」と呼ぶと長いので、「エムエー」と呼ぶことが多いのではないでしょうか。余談ですが。


さて、秘密保持契約は、一般に開示されていない情報(秘密情報)を入手した者が、無断でその内容を第三者に開示したり、目的外使用を行わない旨を約する内容の契約となります。

なお、法令等の要請により必要な限度で行う開示や、役員・従業員・弁護士・FA等に対して必要な限度で行う開示等は除外されるのが通常です。


M&Aにおいては、M&Aを実施すること自体(検討している事実を含みます。)が秘密であることが多く、取引の存在及び内容を公表できる段階に至るまでの間、これを秘密にしておく必要性が高いことから、この秘密保持契約は極めて重要となります。例えば中小企業の場合(には限られませんが)、自分の就業先が身売りするという情報が社内を駆け巡ることにより従業員に必要以上の不安感を与えたり、それが離職へとつながる可能性も想定されることから、M&Aの発表の方法、タイミングは実にセンシティブな問題です。


またCAの別の目的として、買主が実施したデューデリジェンスの結果を第三者に開示したり目的外使用したりすることを禁止するといった機能もあります。


この秘密保持契約は、NDA(Non Disclosure Agreement)と呼ばれることもあります。


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競業避止義務とは?

M&Aにおける競業避止義務とは、取引のクロージング後、対象会社による事業活動につき、これと競業関係となる事業を行わない義務です。


具体的にいいますと、株式譲渡契約における売主に対して、「クロージング日より〇年間を経過するまでの間、対象会社が本契約締結日において行っている事業と競合する事業を直接又は間接に行わないものとする」といった内容の条項を、クロージング後の誓約として課すということになります。


売主は対象会社の行っている事業につきノウハウを有している場合が多いことから、同人が対象会社の譲渡後、同様の事業を立ち上げ、対象会社と競業関係となることが懸念されるため、このような規定が置かれることがほとんどです。なお、売主が個人である場合には、職業選択の自由への過度な制約(公序良俗違反)とならぬよう、期間・範囲につき留意する必要があります。また、内容次第では独占禁止法違反となるおそれもあるため、この点からも注意が必要です。


ところで、事業譲渡契約においては、会社法21条1項によって競業避止義務に関する規定がありますが、現代においては期間・範囲につき時代にそぐわない内容(期間:20年間、範囲:同一市町村内及びこれに隣接する市町村の区域内)となっていることから、これを縮減する特約を置くことが通常です。


売主の側からすると、この競業避止義務の期間・範囲につき可能な限り狭めたいとの意向を有する場合もあるでしょう。いずれにせよ、後日、競業避止義務違反であるとして訴訟になるケースも実際にありますので、細かく、そして明確に、競業避止義務の具体的内容を最終契約書に明記しておくことが肝要です。


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株式譲渡契約とは?

株式譲渡契約は、比較的簡易な手続であるため、中小企業のM&Aで広く用いられるスキームです。対象企業の株主(一人である場合もあれば、複数の場合もあります。)が、自己の保有株主を買主に売却し、対象企業の経営権を譲渡することをその内容とします。


株式を取得する方法としては、公開買付(TOB)や市場買付の方法もありますが、中小企業のM&Aの場合は(非公開会社が多いですので)、株主と買主とが直接交渉する相対取引がほとんどです。

これにより、買主は対象企業の株式を取得するのに対し、売主は同株式に対応する譲渡代金を取得します。


かかる取引のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。


(買主側のメリット)

・既存企業の経営権を掌握できることから、事業成長に要する時間を短縮できる。

・ビジネス規模の拡大・多角化・シナジー効果が期待できる。


(売主側のメリット)

・事業を存続できることから、従業員の雇用や取引先との関係も継続できる。

・大きな創業者利益を確保できる場合がある。

・後継者問題が解決できる。


他方、デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。


(買主側のデメリット)

・事業譲渡と異なり、事業の一部のみの譲渡ではないため、簿外債務を引き継ぐおそれがある(それゆえ、DDや表明保証等が重要となります。)。


(売主側のデメリット)

・事業譲渡と異なり、事業の一部のみの譲渡ではないため、不採算部門が存在する場合には、そのことをもって譲渡価額が下がるおそれがある(当該部門を清算してから契約を締結することが検討されます。)。


中小企業のM&Aにおいては、オーナーの引退に伴い、後継者への事業承継という目的で株式譲渡契約を用いる場合が多いといえます。上にも書きましたとおり、比較的簡易な手続といえますが、それだけに、法的知識に乏しい者が独自に行ったり、または資質に欠ける仲介業者が安易に手を出したりすることなどにより、後日紛争となるケースが増大しています。


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事業譲渡とは?

事業譲渡は、譲渡会社が、その会社の事業の全部又は一部を譲受会社へ譲渡するスキームとなります。企業全体を譲渡の対象とするのではなく、譲渡対象となる事業を選択できることが、株式譲渡との大きな違いとなります。


なお、事業譲渡における「事業」とは、判例上「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」であるとされています。これに該当しない場合には、単なる複数の資産譲渡及び債務引受の実行となります。


さて、事業譲渡と株式譲渡とでは、手続に要するコストの面が異なります。

すなわち、株式譲渡の場合は、株式の移転が基本的なフローとなりますので、比較的手続は簡易であるといえます。しかし事業譲渡の場合は、当該譲渡対象となる事業に紐づく全ての契約の相手方(取引先のみならず、従業員を含む場合もあります。)との間で、契約関係の承継につき同意を得る必要があります(もっとも、株式譲渡の場合も、重要なCOC条項が含まれる契約に関しては、同様の手続が必要となります)。


これらの点は、株式譲渡と比較した際の大きなデメリットです。なお、株式譲渡と異なり、譲渡代金に消費税がかかるという点もデメリットとして挙げられます。


他方、メリットとしては、簿外債務を引き継がないという点が指摘できます。株式譲渡の場合は、かかるおそれが払拭できないことから、表明保証を用いるのですが、事業譲渡の場合は、一部の事業のみをDDすれば足りますので、かかるリスクを比較的抑えることができます。

とはいえ、譲渡会社の商号を継続使用する場合には、譲受会社が責任を負う可能性がありますので、この点は注意が必要です(会社法22条1項)。


また、事業譲渡契約と株式譲渡契約の契約条項という点では、その大分部は共通しているのですが、以下のとおりいくつかの点で異なります。


まず、企業のある事業を譲渡することから、譲渡対象事業を特定する必要があります。大まかな範囲を記載したり別途協議とする場合もありますが、後日の紛争を予防するため、可能な限り詳細に定め、別紙等に明記することが望ましいといえます。


また、会社法21条1項には、競業避止義務についての規定がありますが、これは改正前商法時代から引き継がれた内容であり、時代にマッチしていないとの意見があります。したがって、譲渡会社の事業を不当に制約しないように特約を置いて、その内容(範囲・期間)を縮減することが通常です。


昨今増加している中小企業のM&Aは、事業承継を目的とする取引が多いため、事業譲渡契約ではなく株式譲渡契約が多いと考えられますが、事業譲渡に関するトラブルでお困りの方も、シャローム綜合法律事務所へご相談ください。

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