コラム

2024/06/30
M&A実施後のトラブル等でお悩みの経営者様(前経営者様)

M&Aを実施したが、クロージング後に様々な問題点が発覚し、契約の相手方当事者とトラブルになっている経営者様(買主)又は前経営者様(売主)は、ぜひご相談ください。


クロージング前のDD(デューデリジェンス)や、弁護士による契約書チェックなどにより、前もってトラブルの発生を可及的に予防することは可能であり、今後M&Aを予定されている方は、事前に弁護士に相談いただくことが最善でしょう。

しかし実際には、諸々の事情からクロージングを急がざるを得ない場合もあり、また仲介業者より一方的に日程を決定され、じっくりと案件を検討する間もなく手続きが進んでしまい後戻りできなかったというケースも散見されます。中には、DD自体実施しなかったという場合もお聞きします。


さて、実際に起こってしまったトラブルには対処しなければなりません。

まずは、締結済みの契約書をお見せください。トラブルの原因や責任の所在を分析させていただくとともに、今後予想される事態につきシミュレーションを行いましょう。

また、既に契約の相手方より何らかの請求を受けている場合には、当該主張が法的に認められるのかにつき、検討しましょう。

そして、逆にこちらからどのような反論ができるのか、またその主張を裏付ける証拠が存在するのかにつき、検討しましょう。


具体的な事情を踏まえた上で、具体的にどのような戦略をもって今後の対応に臨むのかを、オーダーメイドでご提案いたします。

M&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)へお気軽にお問い合わせください。



2024/06/26
M&A後に表明保証違反が発覚した場合(契約当事者の主観的態様の影響)

M&Aトラブルのご相談で多いのは表明保証違反です。

売主が表明保証した内容につき、実は事実と異なる点があり、これに起因して損害が発生したとして、買主が売主に対して金銭補償を請求するといったケースです。

買主としては、虚偽の説明を受けたとして怒り心頭かもしれませんが、時には売主の側でも言い分がある場合があるでしょう。

例えば、「ちょっと調べれば買主もわかったであろう」といった事情や、「実際買主も知っていたではないか、それをこじつけてこちらの責任にするのはズルい!」などといったケースです。

これは、「表明保証の相手方の主観的態様が法的効果に及ぼす影響」といった論点であり、学説でも議論がなされています。


この点につき、よく参考として出されるのが、東京地裁平成18年1月17日判決です。

同判決は、「原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れる余地があるというべきである。」と判示しています。ここにいう原告は買主、被告は売主です。また、「善意」とは知らないこと、「悪意」とは知っていることを意味します。

さて、この判決は、表明保証の相手方が悪意の場合には表明保証違反責任を免れると解しているようであり、かつ、相手方に重過失が存在する場合にも同責任を免れると解する余地があるとしています。同判決には賛否両論があり、表明保証違反の法的性質論から結論が帰結されたものではなく、単に禁反言や権利濫用法理などに則して処理をしたに過ぎないという解説もあるようです。また、契約上特段の定めがない限り、表明保証違反の責任追及が表明保証の相手方の主観的態様に左右されるべきではないとの説もあります。

ですので、ネット上では、同判例が一般化され、さも確立された自明の法理かのように記載されているサイトも散見されますが、実際はそのように単純な議論ではないのです。

とはいえ、いずれにせよ、我々も同様の事案を受任した場合には、この判例を引用して準備書面を作成するのですが、あくまでも上記判示は傍論で述べられているにすぎず、またそのように解すべき法律上の根拠も明示されていないことから(前記のとおり、禁反言等の一般条項から導き出しているに過ないようにも思えます。)、先例的価値については慎重に検討する必要があるとも考えられます。


表明保証違反等のM&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。

2024/06/20
M&A後に表明保証違反が発覚した場合(請求できる範囲・額)

M&Aトラブルのご相談で最も多いのは、表明保証違反または誓約(コベナンツ)違反に基づく補償請求・損害賠償請求となります。ここでは便宜上、これらを併せて表明保証違反等といいます。

このような表明保証違反等があった場合、損害を被った契約当事者(買主が多いと思われます。)は、どのような損害(範囲・額)につき金銭賠償を請求することができるのでしょうか。


この点については、一般に、株式譲渡契約における表明保証違反に基づく補償に関しては、信頼利益に限られず、履行利益までが含まれると考えられています。信頼利益というのは、瑕疵がないと信頼したことによる利益をいい、履行利益とは、完全なる給付がなされていれば得られたであろう利益をいいます。よく例として出されるのは、土地を購入できると信頼して借入をしたが契約が不成就となった場合の利息が信頼利益、また転売しようと考えていたけれどもこれが叶わなかったために得られなかった利益が履行利益となります。法律用語はややこしく、「利益」とはいいますが、「損害」と同じことだと思っていただければ大丈夫です。


もっとも、違反と損害の間には、いわゆる相当因果関係が必要とも解されています。より具体的には、損害を通常損害(通常生ずべき損害で、常に相当因果関係が認められます。)と特別損害(損害を与えた当事者が予見し、または予見することが可能であった場合に限って相当因果関係が認められます。)に分けて考え、かかる相当因果関係が肯定される範囲についての損害について、補償請求・損害賠償請求が認められることとなります。


さて、中小のM&Aで広く用いられる株式譲渡契約における補償条項では、通常「売主は、以下の各号のいずれか(注※表明保証やコベナンツの違反を差します。)の事由に起因又は関連して買主が損害を被った場合、本契約に定める条件に従って、かかる買主の損害を補償する。」というような規定が置かれます。


訴訟においては、結局のところ、どの範囲の損害であれば、上記「起因又は関連して」生じたといえるのかという点がポイントとなりますが、損害の範囲(つまり、損害額ですね。)の立証にはしばしば困難を伴うことも少なくありません。

例えば、当事務所で過去に取り扱った案件では、会社売却後に対象会社の売上が大きく下がったのですが、これは売主がクロージング前に取引先に対して契約更新の話を適切に取り付けたとの表明保証を行ったのに反し、クロージング後に取引先が離反したことに起因するものであるとの主張が買主よりなされたといったものがありました。しかし買収後の買主の対応に不備があったことから取引先が契約更新に応じなかった可能性も否定できず、果たして当該売上の減少が「起因又は関連して」生じた損害といえるかといった立証の点で複雑な問題を抱えた訴訟事件でした。


このように、損害の立証には困難を伴うことも少なくありません。そこで、一定の場合には損害が発生したと「みなす」旨の規定を置くこともあります。また、補償の金額的な制限(上限と下限)を定めることもよく見られるところです。


M&A後に表明保証違反が発覚したとお考えの方、また逆に表明保証違反だとして金銭賠償を請求されている方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。

2024/06/08
中小企業庁『M&Aトラブル』実態把握へ、不適切行為に注意喚起

(※ 当事務所メインホームページの弁護士ブログに掲載した内容ですが、M&Aトラブルに関する記事でしたので、一部修正の上、こちらにも掲載させていただきます。)


表題の記事に触れました。中小企業庁「M&Aトラブル」実態把握へ、不適切行為に注意喚起(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース


以前このブログでご紹介した朝日新聞の記事(「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」)を受けて、中小企業庁が当該事件の実態把握に動き出したとのことです。また、実態を踏まえて、中小M&Aガイドラインの見直しも検討するとのことです。


同記事では、「中企庁は(中略)M&A仲介業者が買い手企業による契約不履行などのトラブルを把握しながら、そのことを新たな売り手側に伝えず取引を進めれば、利益相反リスクへの対応などを定めた指針に反するとしている。M&A支援機関登録制度の登録業者には指針の順守が求められており、違反すれば登録を取り消される場合がある。」とされています。


このM&A支援機関登録制度とは、2021年8月よりスタートした取り組みで、M&A仲介業者(FAを含む。)が中小企業庁のデータベースに登録される制度です。登録されたM&A仲介業者は、信用力の向上が期待されるほか、M&Aで利用できる補助金(事業承継・引継ぎ補助金)の対象案件も、同登録制度に登録された者に限るという点で恩恵があるようです。現在3000社ほどが登録されているとのことです。


しかし、同登録を取り消される程度の不利益の告知により、悪質な仲介業者が業界から一掃されるということには決してならないでしょう。そもそも、確信犯的に悪質な仲介を行っている業者は、同登録制度など利用していません。


政府は中小企業のM&Aを強く推進しているところ、このような悪質な仲介業者によるM&Aトラブルの頻発により、大きく水を差される形となりそうです。かねてより問題視されていた点ですが、早急に抜本的な対策が必要となるでしょう。両手取引の禁止や仲介手数料の上限を定めるとなると、一気に業界がシュリンクしてしまうおそれもありますので議論は慎重に進めるべきですが、M&A仲介業者の免許制に関しては、より積極的に検討すべきでしょう。免許を得た者のみが、M&A仲介に携われるということにするわけです。今は、このような制限がありませんので、ブローカーまがいの怪しい業者が跳梁跋扈しているのが現状です。・・・ちなみに、「免許」というのは講学上の用語ではなく、行政学上の分類でいえば「許可(公益上の要請に基づいて一定の行為を一般的に禁止にしておいて、これを特定の場合に解除する行為。自動車の運転免許など。)」か「特許(国民が本来持っていない特殊の権利能力や法的地位を設定する行為。電気・ガス等の供給事業など。)」に該当するのですが、本題から逸れますので、ここでは触れません。


閑話休題。


悪質な仲介業者は、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)など見据えず、高額な仲介報酬目当てでとにかく案件を成就させるだけに躍起となり、後のことは我関せずというスタンスですので、極論すれば、単なる「マッチング」を行っているだけです。マッチングアプリで出会った男女がその後どうなろうが、マッチングアプリ運営会社は責任を持たないというのと同じ発想なのでしょう。このような業者を野放しにしていては、M&A業界の発展もありえません。これを免許制としてM&A仲介業を取り扱える者を健全な仲介業者のみとすることにより、これら問題に対処し業界の健全化に資することは必須であると考えます。


中小企業庁は、M&Aトラブルに関する情報提供受付窓口を設けています。併せて、当事務所の運営するM&Aトラブル相談センターのHPからお問い合わせいただきますと、トラブル解決へ向けてのご相談に対応することが可能です。


M&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。

2024/06/06
M&A仲介の罠 まやかしの事業承継

(※ 当事務所メインホームページの弁護士ブログに掲載した内容ですが、M&Aトラブルに関する記事でしたので、一部修正の上、こちらにも掲載させていただきます。)


「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」という朝日新聞の連載記事(藤田知也記者・全6回)を読みました。有料記事なので転載することはできませんが、興味のある方はご覧になってみてください。(連載「M&A仲介の罠」一覧 – A-stories(エーストーリーズ):朝日新聞デジタル (asahi.com))


内容としては、タイトルどおり、M&A仲介業者の問題点について警鐘を鳴らす記事であり(M&A仲介業者の問題点については、このブログでも過去に述べたことがあります。)、その点につき特段目新しいものはなかったのですが、記事が取り上げている具体的事件に強く興味を惹かれました。


すなわち、表向きは事業再生を目的とする特定の法人グループが、数多くのM&Aを用いて子会社化した企業から同法人グループへと資金移動をさせている(結果、子会社が破綻。)といった実に不可解な事例を取材した記事でした。同法人グループの代表は、現在行方不明とのことです。


しかし結局のところ、同記事では、この法人グループの(あるいは同グループ代表の)真の意図がどこにあったのかという点が明らかとなっていないことから、読了感としては、いささか消化不良のもやもや感が残る内容でした。


これは少し前に世間を騒がせたトケマッチのような、当初から計画された犯罪行為なのか(とすると、模倣犯が発生しうるのか、あるいは集団的犯罪で別に黒幕が存在するのか…同代表の行動からすると、そのような気もします。)、あるいは本当にただ自転車操業的にM&Aを繰り返して進退窮まったのか(これはあまり考えられないと思うのですが…)。全容が解明した暁には、ぜひとも続報を読んでみたいところです。


いずれにせよ、M&Aは仲介業者におんぶにだっこでは大変なことになるということの一事例であることには間違いありません。また、ある程度の売り上げがあるといっても現状で赤字に陥っている会社を購入したいと希望する者が現れた場合に、その意図を探る作業は当然に必要でしょう。M&Aを用いる事業再生は、そんなに簡単なものではありませんし、火の車の会社を引き取ってくれてかつ個人保証も承継してくれるなどという「うまい話」がそうそう転がっていると考えるのは危険です。


そして上述のとおり、M&A仲介業者の構造的問題についてはかねてから指摘がなされているところですが、M&A後のトラブルを回避するためには、売主及び買主が当事者意識をもって取引に応じる必要があるということは、このような記事で繰り返し周知していく必要があると考えます。


M&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。

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