
コラム
M&Aの買主が、M&A仲介業者に対して損害賠償責任を追及し、これが認められたという最近の判例です。
事案は次のとおりです。
買収対象会社B社は、自動車メーカーD社から直接D車を仕入れることのできるディーラーC社との間で基本取引契約を締結することで、D車の販売や修理を行うことができるサブディーラーです。Dサブディーラーとなるには、厳しい要件の充足が必要とされるようです。
原告は、B社が上記サブディーラーであることに魅力を感じ、同社の全株式を譲り受けました(1100万円)。しかしクロージング後になり、本件M&Aを契機として、C社から販売店契約の解消の通知がなされるに至りました。
C社との間の基本契約には、いわゆるCOC条項類似の規定(厳密には、代表者の異動等があった場合に事前通知を求められているのみで、承諾を得ることまでは要求されていないようですが。)が存在しており、また上記のとおり、本件M&Aに関しては、B社がD社のサブディーラーとして相当期間継続可能であることが契約の重要な要素であることから、C社の承諾の有無が重要となります。すなわち、原告としては、C社との間の取引が継続できないとなるとそもそもの取引の目的を達成できないということになります。
なお、その後、原告は、錯誤を主張し、売主との間で株式譲渡契約を解消したようです。
以上の経緯を経て、原告は、M&A仲介会社に対して、①主位的請求として不法行為に基づく損害賠償請求を、②予備的請求として、(ア)債務不履行(イ)不当利得に基づく各請求を行いました。
論点はいくつかありますが、本筋に関しては、被告M&A仲介会社が、本件株式譲渡契約締結前にC社から同契約締結に対する承諾を得る必要があったかどうか、本件承諾に関する誤情報の提供があったかどうか、この点に関する被告の重過失などが問題となりました。
裁判所は、「被告は、本件株式譲渡契約締結までの過程において、原告が本件株式を譲り受けるにあたって、B社がDショップであることを評価しており、このような原告の意向に沿う形での本件株式の譲渡を実現するためには、あらかじめC社から本件承諾を得ておく必要があったことは十分に認識し得たというべきである。(中略)原告に対し、本件承諾を得られたか否かに関し、正確かつ適切な情報提供をする義務を負っていたと認めるのが相当である。」「被告は、原告に対し、C社から本件承諾を得られた旨の誤情報を伝えることにつき、その可能性を容易に予見することができ、かつ誤情報を伝える結果を容易に回避することができたにもかかわらず、前記のとおり、C社から本件承諾を得られた旨の誤情報を伝えている。したがって、被告は、本件承諾を得られたか否かに関し、正確かつ適切な情報提供をするという原告に対する注意義務に著しく違反したというべきであり、被告には、重過失があったと認めるのが相当である。」と判示し、被告の責任を認めました。
M&A仲介業者の責任が認められた珍しいケースかと思われます。ちなみに、判決文からすると、このM&A仲介業者は、「東京証券取引所市場第一部に上場する大手のM&A仲介業者」とのことです。
事例判決ではありますが、M&A仲介業者に対する訴訟も今後増加することが予想されますので、参考となります。
表明保証違反等のM&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。
調剤薬局1店舗の事業譲渡に関するM&Aトラブルです。
買主は、売主より本件店舗を約600万円で買い受けました(別途在庫薬として300万円の譲渡契約もありました。)が、クロージング後、店舗内より複数のメモが発見されたことから問題が発覚しました。
すなわち、当該メモは本件店舗の引継事項が記載されたもので、その内容は、近隣の医院(同医院からの処方箋が本件店舗の総処方箋数の8割を超える関係にあります。)との間で従来より行われてきた慣行を記したものでした。
裁判所の審理によると、①同医院からの処方箋のファクシミリによる受領等、②同医院への恒常的な配達、③同医院への医薬品の備蓄提供、④同医院への備品類の提供、⑤同医院の指示による同医院長やその家族の処方箋の作成依頼、⑥約束処方、及び⑦先付処方などの事実が認定されました。
これらは、薬担規則(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則)に抵触する行為であり(同規則では、平たく言いますと、医院と薬局の癒着が禁じられています。)、裁判所は、過去の行政処分例等の内容を踏まえ、保険薬局の指定取消しや保険薬剤師の登録取消し等の重大な行政処分につながり得るものであったと判断しました。
そして、上記行為は、事業譲渡契約中の表明保証条項(「売主は、訴訟・係争の当事者となっておらず、その他の法律上及び事実上を問わず、本件店舗の営業に重大な影響を及ぼすような第三者からのクレームを受けておらず、またその畏れがないこと」)に違反すると認定し、原告(買主)の請求を認容しました。
ちなみに、原告は他にも、調剤システムを新規導入した費用や従業員の採用に係る費用なども損害として主張していましたが、これらはいずれも損害の範囲に含めることは相当ではないとして排斥されています。
さて、薬局のM&Aも実に多いですが、そもそも本件事業譲渡は、数十店舗を経営する売主が、平成28年度の調剤報酬改定により、いわゆる大型門前薬局の評価適正のため、薬局グループ全体の処方箋受付回数が月4万回超のグループに属する保険薬局のうち、特定の医療機関からの処方箋集中率が極めて高い保険薬局の調剤保険料が引き下げられたことから売却を検討したという経緯があります。売主からは、「売上の大部分が上記医院からの処方箋で成り立っていることの説明もしたので買主には重大な過失がある」とのアンチサンドバッギング的主張がなされていますが、裁判所は、いかなる立場に立つかは明言せずに(「仮に、原告に重大な過失があったことをもって被告が本件表明保証条項違反の責任を免れる余地があったとしても」と慎重に言葉を選んでいます。)、薬担規則を遵守することは当然であるから、売主の従前の取り扱いにつき買主が知らなかったことにつき重過失はないと判示しています。
そしてもう1点、この取引において、事業譲渡契約書内に補償条項が存在しておりませんでした。当然売主は、表明保証の法的性質は損害担保契約であるとの立論より、金銭的救済措置は認められないとの主張を行いましたが、裁判所は、「本件表明保証条項に定められた各事由の重大性等に鑑みると、これに違反があった場合でも、譲渡日を経過すると解除や損害賠償がおよそ認められないと解するのは契約当事者の合理的意思解釈として採用し難い(中略)被告がこれに違反した場合には、原告は、本件表明保証条項に基づき、原告に生じた損害の賠償を受けることができると解するのが相当である」と判示しています。結局のところ、どのような法律構成で損害賠償請求権が認容されたのかが、この判示からはよく分かりませんが、補償条項がなくとも表明保証違反に基づく損害賠償請求が認められた一事例です。実際に、ご相談を受けていると、補償条項が抜け落ちている契約書を時折目にします。そのような場合でも、直ちに諦める必要はないということかもしれません。
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被告の子会社であるA社と株式交換し、完全子会社化した原告が、被告において、株式交換に先立って表明保証に違反したとして、損害賠償を請求した事案です。
本件では株式譲渡ではなく株式交換が用いられていますが、実質的にはA社の親会社であった被告が、原告に対してA社を売却する取引であったということで当事者間に争いがない事案でした。
さて、表明保証違反の内容ですが、上記株式交換後に、A社の従業員の自殺に起因する訴訟の和解に係る補償金を原告が支払ったという事実があり(従業員の自殺自体は、株式交換前の出来事です。)これが株式交換契約の中の「当社(注:被告)の知る限り、Aにおいて、重大な労働災害(中略)その他の労働紛争は存在せず、その発生の虞もない」「当社の知る限り、Aを当事者とする係属中の訴訟又は行政手続であって、Aに重大な悪影響を及ぼすこととなるようなものは存在せず、且つ、かかる訴訟又は手続が提起されるおそれはない。」との条項に違反するという内容が原告の主張でした。
裁判所は、本件自殺は、A社の過重労働が原因と疑われ、本件株式交換当時、遺族が労災申請や証拠保全手続をし、訴訟提起の恐れもあり、A社の経営に深く関与していた被告が知らなかったとは言えなず、本件自殺の事実の不告知は、表明保証違反に該当するとして、原告が支払った和解金の額と弁護士費用の一部につき相当因果関係があると認め、原告の請求の相当額を認容しました。
上記のとおり、表明保証に「知る限り」の限定があった事案でしたが、裁判所はこの点を丁寧に事実認定し(実際には、A社が更にB社に吸収合併され、そのB社もファンドに売却されたという事実があり、また、各社の取締役が共通していることから被告とA社の関係は「資本支配にとどまらず、経営にも関与していた」「経営に深く関与していたことから、本件自殺の事実関係を知らなかったとはいえない」と認定しています。)、その上で、被告の責任を肯定しています。
またこの判例には、もう一点、特筆すべき部分があります。すなわち、被告の表明保証中、開示資料等に関し「重要事項について誤解を生ぜしめたり、欠けているところがない」との条項があったのですが、この点につき、被告は「表明保証の対象となる重要事項等は、被告が原告に対し、ある事実が真実かつ正確であることを、主体的に能動的に表明し、その表明した事実に限られ、表明されなかった事実に含まれず、かつ、当事者が意図しない事実まで含むものではない」と主張しました(実際、原告は財務DDしか行っていなかったようです。)。
この点につき、裁判所は、「表明保証の機能には、リスク分配機能があり、表明保証をした契約当事者は、表明保証をした事実については責任を負う一方、それ以外の事実については責任を負わないとすることにより、契約当事者の責任を明確にする機能があること(中略)を十分に考慮しても、被告の主張のとおり、表明保証の対象ないし範囲が、原告がデュー・デリジェンスにおいて開示を要求した範囲に限定されるとの解釈をすることは相当でな」いと述べ、表明保証のリスク分配機能を肯定しています。今後の実務にも参考となると考えます。
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本件は、買主(原告)・売主ら(被告ら)間で、対象会社の全株式につき株式譲渡契約が締結されたところ、クロージング後に税務当局より、過年度の法人税の申告漏れがあるとの指摘を受け、その後修正申告を余儀なくされ、約2億3500万円の法人税等を追加納付するに至ったとして、原告が被告らに対し、表明保証違反を理由として、当該納付法人税額等に相当する補償金の支払を請求した事件です。金額がなかなかに大きいですね。
なぜこのような税務当局による上記指摘に至ったのかについては、複雑な事実経緯があり(信託財産にかかる一連の計画が、外資系信託銀行の日本撤退により中途で合意解約されたといった流れがあるようです。)、また同指摘に本当に課税根拠があるのかについても議論があるようですが、ここでは触れません。いずれにせよ国税局からは、「信託解約時に何らかの形で課税するという方向で検討しており、留意していただきたい。」との注意喚起が事前にあり、その内容は議事録として書面化され、かつ、DD時に原告が依頼した弁護士に交付されていたとのことです。
例によって本件の株式譲渡契約においても、各表明保証条項及び売主の免責事由を定めた各条項があり、争点としては、これら各条項に該当する事実が認定されるかという点となりました。裁判所は、事実認定に際して、これら条項の一つ一つにつき該当する事実があるか丁寧に検討を行った結果、表明保証条項中、一部につき売主らの違反を認めましたが、次いで、免責事由(後述)も認めたことから、結論として、原告の請求を退ける形となりました。
さて、本件における免責事由について少しご説明しましょう。本件株式譲渡契約では、①売主がクロージング日前に、買主に対し、明示的に表明及び保証の違反を構成する事実を開示した上で、本件株式を譲渡した場合、売主は、買主に対し、表明保証義務を負わない(免責条項①)、②買主が売主に事前相談なく処理した結果、買主に損害が発生した場合、売主は、買主に対し、その賠償責任を負わない(免責条項②)という2点の免責条項がおかれていました。
裁判所は、まず免責条項①につき、被告らが上記DD担当弁護士に対し、本件信託契約の締結から合意解約に至る事実経過を直接説明するとともに、それを裏付ける各種資料のほか、前記議事録を交付した事実を適示し、これら開示は、対象会社の資産価値に影響を及ぼす事情の存在を直ちに理解するに十分な程度の開示だったとして、同免責事由を認めました。そして次に、免責条項②については、原告が、被告らに対し、十分な説明・協議を行うことなく修正申告を行い法人税等の納付に至った事実を認定し、これが同条項所定の免責事由に該当するとしました。
興味深いのは、専門家がDDの過程で、売主の説明を受け資料を確認すればリスクの可能性を認識しえたことに鑑み、これを上記免責事由①該当ありと判断している点です。このような免責条項が規定されていない契約内容であったならば結論を異にすることとなった可能性もあり、あくまでも事例判決の一つとして考える必要がありますが、なぜDDを行った結果、かかるリスクの発生を覚悟の上で買主が契約実行に至ったのかも不明です。DDを行った弁護士は、法務監査報告書等と題してDDの結果をまとめた書面を依頼者に交付しますが、その中で当該リスクにつきどのような報告内容の記載となっていたのかも気になります。
いずれにせよ、裁判所は、表明保証違反に基づく補償請求訴訟においては、私的自治の原則にかえり、株式譲渡契約書の記載内容に則して丁寧に事実認定を行う傾向があるのではないかと考えます。とすると、売主側の防衛策・自衛策としては、ディスクロージャー・スケジュールを用いることも有用ですが、本件のように免責条項を詳細に規定しておくことも積極的に検討すべきかと思われます。
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次のような事案です。
X(買主)がY(売主)より、飲食店の経営等を行う会社Aの全株式を買い受けた事例で、株式譲渡に係る基本契約中、Aの財務内容、資産状況等に関する重大な不利益、資産状況、情報等の提供された事実が真実かつ正確であることにつき表明保証がなされるとともに、かかる表明保証違反に起因して生じる損害を補償する旨の規定がありました。
XによるAの買収後、従前Yが行った説明には、店舗の閉鎖損や契約内容等につき虚偽の内容があり、YがAの資産を実際よりも高く見せかけた結果、見込んでいた水準の売上が得られず、また敷金が返還されないなどとしてXが提訴し、補償請求をなしました。
本判決は、真実保証違反の対象となる情報につき、企業買収にあたっては、当該企業が保有する資産や債務等に関する情報を正確に把握することが必要であるが、そのような情報は、それまで経営に当たってきた譲渡人側が十分把握し、譲受人は十分に把握することができないのであるから、譲渡人側から譲受人側に対して、十分かつ正確な情報が開示される必要性、重要性があるものの、当該企業についてのすべての事項(情報)を完璧に誤りなく開示することは極めて困難かつ不必要で、真実保証の対象となる情報も自ずと限定されるとした上で、具体的には、企業買収に応じるか否か、買収価格をどのように定めるかなどといった事柄に関する決定に影響を及ぼす情報について、重大な相違、誤りがないことを保証したものであると説示し、Xの請求を一部認容しました。
少し古い判例とはなりますが、株式譲渡契約によるM&Aにおいて、売主に表明保証違反があったとして、同契約の補償条項に基づく損害補償が認められた事例です。情報公開の際の真実保証違反が問題となる情報の内容・範囲について正面から判示したものとして紹介しておきます。